2018年08月03日
社会・生活
企画室
竹内 典子
リコーは、この4月から働き方変革の一環としてリモートワークの利用範囲を拡大し、育児や介護などの特別な理由がない社員も対象にした。事前に上司の許可を得れば、月に10日まで自宅やサテライトオフィスでの勤務が可能である。
筆者も早速、在宅勤務を試みると、「通勤がない」ことが心身ともにいかにラクなのかということを強く感じた。通勤時間を有効活用できるだけでなく、満員電車の息苦しさや見知らぬ人と体が当たるストレスがなくなり、こんなにも開放された気持ちになるとは思わなかった。しかも、仕事はパソコンの電源を入れればすぐにスタートでき、開始時間も早めることができる。
在宅勤務で使用するノートパソコンは、セキュリティ対策を施して会社から貸与されたものだ。そのため充電用のコンセントと一緒に会社から持ち帰らなくてはならない。かさばるのでどうやって持ち運ぼうかと迷っていたところ、ある営業の女性から「デイパック(リュックサック)がお勧めです!」と言われた。彼女はパソコンと営業関連の書類を持ち歩くようになって、それまで使っていた肩掛けバッグだと体に歪みが出てしまった。そこでリュックに代えたところ、肩こりが改善されたという。
その提案に乗ってリュックで通勤してみたところ、確かに荷物が両肩に分散されるため軽く感じた上に、両手が自由に使えるのでスマホも操作しやすくなった。混雑した駅の階段ですれ違う人と荷物がぶつかる心配もなくなり、格段に歩きやすい。
最寄りの東京駅の交差点で周りを眺めると、男性も女性もリュックの利用者が意外に多いことに気づく。特に男性は、黒や紺の定番色で持ち手が付いた手提げバッグとしても使用できるビジネスリュックを持つ人が多い。クールビズでネクタイを外した姿には、カジュアルなリュックがなじんで見える。愛用者に話を聞くと、「通勤時はリュックとして、お客様に会う時は手持ちバックとして使っている。内側にいくつもポケットがあるので整理がしやすく、何より荷物がたくさん入るところがいい」と言う。
(写真)筆者
一方、女性用にはカラフルなデザインのものなど、洋服のテイストに合わせられるリュックも目立つ。ある日、レザーを使用したデザイン性の高いリュックを背負う個性的な女性の姿が目に留まった。彼女の足元を見ると、黒のスニーカーを軽快に履きこなしていた。
女性ファッション誌でもスニーカーと仕事服のコーディネートの特集が組まれるなど、ここ数年人気が続いている。スニーカーを履いて通勤している友人は、「駅まで歩くのも電車で立っているのも楽だから、ヒール靴には戻れない」と快適さを語る。
政府もその流れに沿った取り組みを始めている。スポーツ庁は2018 年3 月、官民連携プロジェクト「FUN+WALK PROJECT(ファンプラスウォークプロジェクト)」をスタートさせた。気軽に取り組める「歩く」ことに着目し、「楽しい」を組み合わせることで、歩く習慣を身に着けてもらおうという試みだ。その中では、スニーカー通勤など歩きやすい服装での通勤を推奨されている。
同庁の調査によると、成人の週1日以上のスポーツ実施率は51.5%にとどまる。このため、ライフステージに応じたスポーツ活動の推進とその環境整備を行うことで、成人の週1日以上のスポーツ実施率を65%程度に高めることを目指している。働き盛りの世代にとっても、歩くことは運動を習慣化するための第一歩となる。
こうした動きを受けて、スニーカー通勤を認める企業も増えてきた。都内の百貨店では、ワイシャツやカジュアルスーツなどに合う「仕事で履けるスニーカー」を提案する動きも広がっている。
クールビズの装いに加え、歩きやすくクッション性の高いスニーカーを着用すれば足元が快適になり、ひと駅歩いて出社や帰宅してみようと思うビジネスパーソンが増えるかもしれない。ビジネスバッグとしてリュックが市民権を得たように、スニーカーも新しいビジネススタイルとして定着していくのだろうか。
竹内 典子